Cave de Terre Online

自然と共生する、伝統と革新のワイナリー

このピノノワールは、オーストリアの首都ウィーンの北東、ニーダーエスタライヒ州のヴァインフィアテル地方に拠点を置く、家族経営ワイナリーヴァイングート・クレッツァーが、彼らの哲学の結晶として造り上げる、深くエレガントな一本です。
このワインには、彼らの土地への敬意と、伝統と革新を融合させたワイン造りの情熱が、余すところなく詰まっています。

ヴァイングート・クレッツァーは、1891年に遡る長い歴史を持つ、この地の名家です。
現在は、その伝統を4代目当主フランツ・クレッツァー氏が引き継ぎ、新たな道を切り開いています。
彼の哲学は「ワインは畑から生まれる」という揺るぎない信念です。2009年、彼はその信念を具現化するため、所有する全31ヘクタールの畑をビオディナミ農法に転換するという、オーストリアでも極めて先進的な決断を下しました。

ワイナリーが位置するバート・ピラヴァルトは、温暖なパノニア気候とアドリア海からの湿った風がもたらす独特のミクロクリマに恵まれています。
クレッツァーは、この恵まれた自然を最大限に活かすため、畑では一切の除草剤や化学肥料、殺虫剤を使用しません。
代わりに、ブドウ樹と土壌を一つの生命体と捉え、堆肥やハーブの調剤を用いることで、土壌本来の活力を引き出し、ブドウの生命力を高めています。
畑の畝間には緑肥を植えることで生物多様性を育み、土壌を健全に保つための努力を日々惜しみなく続けているのです。
この徹底したアプローチが、テロワールの個性を鮮やかに映し出す、唯一無二のブドウを育んでいます。

テロワールを表現する自然な醸造

このワインのブドウが育つリード・シュヴァルツァーダーは、クレッツァーを代表する単一畑（Ried）です。
この畑は、風化した石灰岩が混じる砂利質の土壌に、ローム層が複雑に絡み合う独特の地質を持ちます。
この多様な土壌が、ブドウに緻密なストラクチャーと、ワインに深みのあるミネラル感をもたらす重要な要素となっています。

収穫は、ブドウが完璧に熟したタイミングを見計らって手摘みで行われます。
醸造においても、この上質なブドウの個性を最大限に引き出すため、人為的な介入は最小限に抑えられます。
培養酵母ではなく、ブドウに付着する天然酵母のみで自然発酵を促すことで、その土地ならではの複雑なアロマと風味が生まれます。
発酵後、ワインは大樽でじっくりと熟成させます。これにより、果実のピュアさを保ちつつ、滑らかで奥行きのあるテクスチャーが育まれます。

繊細さと力強さのハーモニー

グラスに注がれたワインは、ガーネットを帯びた美しいルビー色を放ちます。
グラスを回すと、まず熟したチェリーやラズベリー、ストロベリーなどの赤系果実の凝縮したアロマが豊かに香ります。
そこに、バラやスミレといったフローラルなニュアンス、さらに白胡椒やクローブ、紅茶の葉のような複雑なスパイス香が優雅に重なります。

口に含むと、そのなめらかな口当たりに驚かされます。
シルクのようにしなやかでありながら、芯の通ったタンニンが舌を包み込み、引き締まった美しい酸が味わいに骨格を与えます。
口いっぱいに広がるピュアな果実味と、繊細なミネラル感のハーモニーが、長くエレガントな余韻へと続きます。
このワインは、ピノノワールにありがちな軽やかさだけでなく、土壌由来の深みと複雑さを備えており、飲み進めるごとに新たな表情を見せてくれます。

食卓を彩る万能なパートナー

このクレッツァーのピノノワールは、その繊細さと複雑さから、幅広い料理と素晴らしい相性を見せます。
鴨肉のローストや仔羊の香草焼き、きのことトリュフを使ったリゾットなど、風味豊かな肉料理や土の香りのする食材と合わせると、ワインの持つ果実味や複雑なスパイス感が引き立ち、互いの美味しさを高め合います。
また、マグロやカツオのたたきなど、和食にも驚くほどマッチする懐の深さも魅力です。

この一本を、ぜひゆっくりと時間をかけてお楽しみください。
グラスの中で変化していくアロマや味わいを堪能することで、クレッツァーがこのワインに込めた情熱と、ヴァインフィアテルのテロワールの素晴らしさを、より深く感じることができるでしょう。

■産地： オーストリア　ニーダーエスタライヒ州
■品種：ピノノワール100％
■タイプ： 赤・ミディアム
■容量： 750ml